クリーンズランドの宝石
と言われるポート・ダグラスに2週間滞在した。この小さな港町がなぜこれほど有名になったのだろうか。
この町の歴史に興味を持った。しかし、訪れた人なら歴史を調べなくてもこの町が多くの人々から愛される理由がすぐわかるだろう。
美しいフォーマイル・ビーチと全体に漂う清楚にして優雅な雰囲気である。人が多すぎることもない、かといってさびれてもいない。こぢんまりとしているが、必要なものは全部そろっている。ケアンズよりさらにペースはゆっくりしるが、さびれているわけではない。
洗練された大人のリゾートらしい趣(おもむき)が感じられる。住宅街を歩いていても、工夫を凝らした家々のデザインにふと目をとめたりして、飽きることはない。
凶暴クラゲ
しかし、この完璧に近いリゾートにもいくつか問題はあった。海はきれいだが、そのきれいな海には凶暴クラゲ(jellyfish)が潜んでおり、シーズン中の海水浴客を脅かすのであった。
オーシャンフロントに家を持ちたがる人々は不動産価格をつり上げ、ポート・ダグラスを宝石の町にしてしまった。正比例してホテルやアパートも高くなり、その他の物価も上昇した。市街地にひとつしかない大手スーパー“Coles”も堂々と他所にはない殿様値段をつけている。
高い=高級=スノービッシュ族(snobbish)=が出現し、高ければ何でもよいという<勘違い族>が出てくる。こうなるとオーストラリア人も金には弱いので、ついつい金銭と引き換えに自分たちの土地を明け渡してしまう。今では、地元の若い人々が土地を所有できなくなるほどになり、昔からの住人は出て行かざるを得なくなってしまった。なんという皮肉な話だろう。
Long Distance Callに注意!
僕がとても高いと感じたのは電話代だ。ここからケアンズまでは車で約1時間、70キロの距離だ。でも市外局番は同じ、これだけ離れていても市外局番はおなじ、つまり市内通話ということか、やっぱりオーストラリアはおおらかな国だ。
そう思い込んでいた僕には、それがとんでもない誤解だったことに気づいていなかった。僕はインターネットを接続する際、ダイヤルアップするしかないのだが、ポート・ダグラスには接続ポイントがなく、最寄の接続ポイントはケアンズしかなかった。僕はケアンズまで電話代など気にすることなく、毎日せっせと1時間以上アクセスしていた。
それでとうとうケアンズに帰るというチェックアウトの朝、電話代の請求を見て愕然した。2週間でなんと600ドルも使っていたのだ!!これも日本的感覚というやつだ。市外局番(07)が同じであれば同一エリア内=定額市内料金、と勘違いしていたわけだ。しかし、それは立派なLong Distanceだった。とほほ。これからは電話代に十分気をつけます。
家を所有すれば幸福になれる!?
ポート・ダグラスの不動産はクイーンズランド州では高いほうかもしれない。将来家を購入することも含めて、このあたりの不動産屋を見て廻った。安いもの(50万豪ドル)から高いもの(天井知らず)まであったが仲値は100万豪ドルといったところか。日本円にして約8000万円である。日本の不動産と比べると安すぎるぐらいだ。
ご希望の方には各種ご案内して差し上げたいくらいだ。北米・オーストラリアでの不動産購入は日本のそれと異なりすべてがガラス張りである。どこかの国の不動産屋みたいにドサクサにまぎれて暴利をむさぼるという話はない。もちろん彼らだって商売だからどこからかどこからか手数料を得なくては食べていかれない、ということはお分かりだと思う。
ところで日本での話であるが、バブル期に吉祥寺駅近くのマンション2LDK が1億円したという。ある会社社長が値上がりを見越してそこを買ったという。その後バブルの崩壊とともにその会社は倒産、たちまちローンの返済が滞り、物件は銀行に取り上げられた。銀行は負債を裁判所の競売物件にかけ、1000万円でやっと売れたそうだ。資産価値は10分の1になってしまった。
その1000万円の物件に改装費用やその他の手数料などが加算されて、いまでは同レベルの物件が2000万円程度で購入可能だそうだ。債務は1億円だから、8000万円は残債のままである。そうしてあのころはみんな浮かれていた。
無理して家を買うなんて、愚かな話だとは思っていたが、そこまで狂っていたとは信じがたい。どうして、あんな気候の悪い東京で、車や人ごみで騒々しく、海も緑もない地域に家を買おうとするのか、僕たちには信じられない。まあそれが便利さに汚染された日本人なのだろう。
年収の何倍ものローンを組み、30年後にやっと払い終わったら、資産価値が10分の1になっていたなんて。30年後の家屋なんて廃墟ではないか。それもこれも“家を所有すれば幸福になれる”みたいな虚構の価値観を日本人が持っているからだろう。
街から4マイルビーチ経由でアパートへ戻った。海を見ながらの会話はこうだった。
「確かにここはクイーンズランドの宝石だけど、今までの行った中ではもっときれいな海もいっぱいあったな。」
「そう、少なくとも地中海のほうがきれいだわ。家を買うなら断然、地中海よ。」「インド洋もいいらしいぞ。」
「セイシェル諸島ってこと。」
「俺たち海辺に家など買わないほうがいいかもしれない。」
「そうよ。だって飽きたらどうするの。」
わがままなふたりであった。そう言って僕は宝石の町ポート・ダグラスを後にしたのであった。
2004/01記
ページ先頭へ